みなし残業制度の廃止を強く求める件

現在、日本では14.2%の企業がみなし残業制度(=みなし労働時間制=固定残業代制度)を採用しているそうです。(厚生労働省 平成31年就労条件総合調査 結果の概況 より)

よく求人票などで見かける

月給25万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む

とういうアレのことです。

このみなし残業制度は、別名「固定残業代制度」と呼ばれることもあってか、「何時間残業しても残業代は固定される」と誤解されることがよくあります。

例えば、上の求人の場合、「月間の残業時間が0時間でも100時間でも残業代は20時間分を支払うよ by 経営者」というふうに誤解されがちですが、もちろんそれは誤解で、法律上ではみなし残業時間を超えた分の残業代は追加で支払う必要があります。

誤解を避けるためには、下のような書き方が望ましいでしょう。

月給25万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む。超過分は別途支給

みなし残業は企業側にとって本当に良い制度と言えるのか?

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

労働基準法 第三十八条の二

ちょっと何言ってるか分からないですが、要するにみなし残業制度というものはもともと「外回りや直行直帰、接待などが多い人は残業時間の算定が面倒だから一定の時間までは残業をしたとみなすことで余計な事務作業を減らそう」という趣旨のものです。

それを内勤の従業員にも適用させることで

  1. 残業代の計算が楽になる
  2. 固定残業代が給与に含まれているから額面の金額が高くなり求人票の見栄えがよくなることで応募者を集めやすい
  3. 何時間働かせても残業代は固定だからおトク(※これはアウト)

というメリットが生まれます。

3は論外として、1と2だけ見ると、

みなし残業のメリットその1 残業代の計算が楽になる?

別にKINPIRA CLOUDなどの勤怠管理システムを導入しなくても、集計機能付きのタイムレコーダーさえあれば残業代の計算など簡単にできてしまう世の中です。

みなし労働時間制が法律に設けられたのが1988年のようで、当時は社員のタイムカードから出勤簿を作成し、そろばんを弾く(は言い過ぎ、「電卓を叩く」でしょうね)のがかなり面倒な作業であったろうと容易に想像できますが、前述のように現在は状況が違います。

「残業代の計算が楽になる」というメリットは多くの企業においてもうないといっていいでしょう。

みなし残業のメリットその2 応募者が集めやすくなる?

A社)月給25万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む)

B社)月給21万円

このような2つの求人があったらどっちに惹かれますか?

金額が低く、しかも残業代が出るか出ないかもわからないB社より、A社に惹かれる人も多いのではないでしょうか。

ですが、まず「残業代が出ない」というのは言語道斷です。

この場合はB社に残業代の詳細についてきちんと確認して、「仮に月に20時間残業をした場合、月給の総額がいくらになるか」を計算した上でA社と比較したほうがいいでしょう。

ただ、みなし残業制度を採用していないB社は、残業についてかなりシビアなスタンス(従業員に不要不急の残業はさせない。もちろんいいことですが)の可能性が高いので、注意が必要です。

以上を踏まえて考えると、「固定残業代が給与に含まれているから額面の金額が高くなり求人票の見栄えがよくなることで応募者を集めやすい」のは確かにそうかもしれませんが、求職者は「額面の金額に惑わされず、他社と比べて冷静に考えるべき」と言えるでしょう。

みなし残業制度の廃止が進まない理由

現状下のような状況だと仮定して、

・従業員Aさん(月の残業時間 20時間)

→ 月給25万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む)

 

・従業員Bさん(月の残業時間 0時間)

→ 月給25万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む)

みなし残業制度を廃止すると想定してみましょう。すると、

・従業員Aさん(月の残業時間 20時間)

→ 月給25万円(20時間分の残業代4万円を含む)

 

・従業員Bさん(月の残業時間 0時間)

→ 月給21万円(残業代なし)

従業員Bさんには酷な話かもしれませんが、このように人件費削減になります。

なのに、なぜみなし残業制度の廃止が進まないのか?

理由は、従業員Bさんのように全く残業をしない人が実際にはほとんどいないからです。

求人の時点で「20時間分のみなし残業代を含む」ということは、平たく言うと「毎月最低20時間は残業しろよ」という無言の圧力があることを使用者(企業)も労働者(求職者)もわかった上での従業員採用に至るためです。

言うまでもなく、決して望ましいことではありません。

不要不急でない残業はやるべきではない

みなし残業制度がある場合、使用者には「どうせ賃金は変わらないからできるだけ長く働かせよう」という気持ちが、労働者には「残業しなくても固定残業代をいただくのは申し訳ない。やることがなくてもみなし残業で決められた時間分は会社にいよう」という気持ちが芽生えてもおかしくありまえん。

この状態は使用者と労働者の両者にとって何の得にもならない最悪の状態と言えるでしょう。

みなし残業制度は少しでも早く廃止して健全な労働環境を整えるべきと思います。

コメント

  1. […] みなし残業(固定残業制度)とは、使用者が労働者に対して一定の残業代を固定して支払うものです。(みなし残業については、過去の記事みなし残業制度の廃止を強く求める件でも触れていますので、併せてご一読ください。) […]

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